[沼津] interview:スキマcinema 大木真実さん(前編)「人生を変える映画との出会いは、やっぱり映画館なのかも」

2020年8月22日、沼津市・新仲見世商店街で約半年ぶりとなる「スキマcinema」による映画上映会「新仲見世商店街 アーケード ナイトシネマ『ディリリとパリの時間旅行』」が開催されます。

スキマcinemaは、“まちのスキマ空間やマニアックなスキマ作品の上映”をコンセプトに、沼津市を中心に空き家や公共空間での映画上映会を開催しています。
しかし、コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、2020年の2月以降は活動休止の状態が続きました。

いよいよ活動再開となる今回の上映のこと、そして活動休止期間の思いについて、スキマcinemaを主宰する大木真実さんに聞きました。

スキマcinema 公式Web

[沼津]さようなら!商店街のアーケード下で最後のシネマ上映『ディリリとパリの時間旅行』


はじまりは「蔵の中でみんなと映画を観たらおもしろそう!」という直感

On Ridgeline(以下、OR)そもそも「スキマcinema」を始めたきかっけは何だったんですか?

大木 2016年9月に沼津市が主催する「リノベーションまちづくり」の「市内空き家見学ツアー」に参加したことがきっかけです。

この時に、倉庫として使われてた空き蔵を見学したんですが、「この真っ暗な空間で、みんなで映画を観たらおもしろそう」と直感的に思いました。そのことをみんなに話したら応援してくれて、市役所のサポートもあって、トントン拍子で。
2016年11月5日にスキマcinemaプレ上映会として市内の空きビルで『もぐらのクルテク』の上映が実現できました。

当初からこの上映会を一過性のイベントではなく、日常にしたいと思っていたので、「毎月最後の日曜日はスキマシネマの日」というキャッチコピーをつけて、無理くりでも毎月開催してきました(苦笑)。

OR これまでの上映作品リストを拝見して驚きました。2017年以降は毎月上映会を開催し、これまで40回以上も開催してきたんですね。
しかも、ただ上映するだけでなく、会場内のデコレーションや映画と連動したワークショップ、飲食店出店など。スキマcinemaならではの企画が魅力的ですね。

大木 シネマということで、白と黒をスキマcinemaのテーマカラーとして会場内を毎回デコレーションしています。

なによりスキマcinemaの一番の特徴は「自由なスタイルで映画を観よう」ということ。そのために、スクリーンの前にラグを敷いたり、座椅子やクッションを置くこともあります。

寝転んでも、立ったままでも、うろうろしながら観てもOK。
小さい子供って椅子に座ってじっとしていることが難しいじゃないですか。だけど、スキマcinemaは自由に動けるので、参加者からは「子供と一緒に最後まで映画を観ることができた!」という感想もいただいています。

それに、せっかく映画をきっかけに集まったのに、ただ映画だけを観て帰るのはもったいない。だから、見終わった後に話ができるように飲食ブースやワークショップといった場所も用意するようにしています。
あと、ワークショップは、映画配給会社へ支払う費用を補填するため…という理由の時もありますね。

スキマcinema 公式Web内ギャラリーより

映画館と動画では受け取る感情が違う

OR しかし、コロナウィルス感染拡大を受けて約半年間の活動休止…。その間はどんなことを考えていましたか?

大木 2月にベアードブルワリーガーデン修善寺で、ミッシェル・オスロ監督作品『夜のとばりの物語』を上映して以来、約半年ぶりですね。
この半年間、私も動画配信サービスでたくさんの映画を観ました。
そのなかで「パソコンがあれば何でも観られる時代に、スキマcinemaとして上映会を続ける意味はあるのかな?」とも悩みました。

でも、動画配信サービスなら、好きなタイミング、楽なスタイルで観られるけれど、でも、なんだか“こなしている”という感覚があって…。
映画館で観るより受け取る感情が少ないなと感じたんです。感情が違うというか。

小さなミニシアターだと、斜め前の人が涙を流したり、くすくす笑ったり、周囲の感情も映画を観ながら伝わってくる。
空間を共有した映画体験と動画では、受け取る情報や感情のボリュームが違うのではないだろうか。人生を変えるような映画との出会いは、やっぱり映画館じゃないと生まれないのではないだろうか。そう考えるようになりました。

私にとってこの半年は、スクリーンで観る映画体験の大切さを再確認する期間でしたね。

「商店街がパリの風景に見える」の一言に驚き

OR 今回は、アーケード解体が進む新仲見世商店街が会場ですが、なぜこの場所に決めたのでしょうか?

大木 新仲見世商店街では、空間再編成が行われているところです。ちょうど今、アーケードの屋根が取り外されて鉄骨のフレームだけの状態。9月中には、アーケードそのものが撤去される予定です。

だから、この骨組みだけの状態を楽しむことができるのは今だけ。ラストチャンスなんです。

ある時にテレビのイマイのご主人が「夜、この鉄骨を見上げると、ここがパリの風景みたいなんだよねえ」って言っていて、驚きました。
たしかに、映画『ディリリとパリの時間旅行』に登場するエッフェル塔の鉄骨フレームがアーケードに似ていなくもない…ような? 

そのお話がおもしろかったので、当日はスクリーン越しにアーケードの鉄骨フレームが見えるようにセッティングするつもりです(笑)。

新仲見世商店街のアーケード(2020.7.14撮影)

私も新仲見世商店街で「NUMAZU DESIGN CENTER」を運営しているので、これからの新仲見世商店街のための空間再編成の会議やワークショップに参加しています。まだ具体的なプランは決まっていませんが、商店街を広場や公園のように、みなさんに日常的に使ってもらえる空間にしようという話になっています。

現在、商店街にテーブルやイスを設置しているのも空間再編成に向けた社会実験としての試みなんです。

今回の上映会をきっかけに、商店街のことをもっとみなさんに知ってもらいたいという意図もあって、上映会前後に商店街の会長から新仲見世商店街の空間再編についてお話してもらう予定です。
そういう場をつくることも、今回の上映会の役割だと思っています。

大木さんが代表を務める「NUMAZU DESIGN CENTER」

後編では、過去のスキマcinemaで印象的だった上映会や、自主上映会の作り方、これからの活動について紹介します。


大木真実
Profile:グラフィックデザイナー。1979年大阪府生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、都内のデザイン会社・広告代理店などでデザイン経験を積み、独立。沼津へ嫁ぐ。子育てをしながら仕事をしたいと思い、子どもの通学路にある新仲見世商店街に、グラフィックデザイナーのためのシェアオフィス「NUMAZU DESIGN CENTER」をオープン。また、まちの隙間空間を会場にした移動式ミニシアター「スキマcinema」を主宰。
www.daitai-graphic.com
www.ndc.design
www.sukima-cinema.comGALLERY | daitai-graphicdaitai-graphic.com

[屋外ナイトシネマディリリとパリの時間旅行』]
日時;2020年8月22日(土)19:00〜20:35(開場18:45)
会場:新仲見世商店街(〒410-0801 静岡県沼津市大手町5丁目4−19
チケット料金:1,500円(オリジナルノベルティ付)
注意事項:チケット購入は公式Webサイトから。受付での接触を極力少なくする為、事前オンライン決済のみ。雨天中止の場合は払い戻し有り。中止の場合は当日17時迄に各SNSにて告知
主催:スキマcinemaOfficial:WebFacebookInstagramTwitterYouTube