歴史とお酒が好きなsioさんによる地元散策コラムの第三回。sioさんは現在「月刊イヌ時代エッセイ大賞」の審査員も務めています。
こんにちは。早いもので「夏終わった~」なんて言ってたら、なんともう年が明けて数ヵ月経ちました。……え!? 季節と時間の感覚が狂っている。2020年、時空が歪んだ一年でしたね~。
さて今回、河川敷および狩野川ラバーなのでついつい狩野川周辺を徘徊してしまう私ですが、例に漏れずおさんぽして辿り着いたのは、沼津市平町に鎮座する「日枝神社」です。通称、山王さん。
私はこの山王さん前の道、その名も「山王通り」が好きでついつい歩いたり、車から凝視してしまいます……。なんだか触れたことも出会ったこともない、昔の沼津の街並みとご挨拶している気分になるのです。
ところでこの山王さん周辺、どこかカオスな雰囲気がしませんか? すぐ近くに警察署、横にはドン○ホーテ、そして車どおりの多い三叉路に立ち並ぶハーレーと黒瀬橋。ここだけ清濁合わさってザワザワする感じがするのは気のせいでしょうか。ちなみに私はこの近くの某テニスコートで一時期お世話になっていたことがあり、ずっと「テニスの○子様」ごっこをしていた小学生でした。
そんな山王さんの起源は古く、創建以来、900年もわたって沼津と狩野川を見守り続けています。主神に祀られている大山咋神(おおやまくひのかみ) は、農耕と治水を司る神。まさに目の前の狩野川と、山王さんを含めた一帯、かつて「大岡庄」と呼ばれた穀倉地帯にいて欲しい神様ナンバーワンですね。今でも地名に「山王台」という名前が残っていることからも、古くから沼津にあったことがうかがえます。
そもそも「日枝神社」は全国各地にある神社で、近いところだと修善寺にもあります。ちなみに総本家は「日吉大社」といい、比叡山の滋賀県側にあります。紅葉シーズンのライトアップはまさに異世界に迷い込んだような気持ちを味わえるので、機会があればぜひ。どうして本社と分社で名前が違うんですかね? 格の違いってやつでしょうか。
さてさて、日枝神社境内を歩いてみると、気になるものを発見しました。
「松尾芭蕉の句碑」!
『おくのほそ道』で有名な松尾芭蕉は、全国行脚する途中に各地の史跡や景勝地に出没しているので、このように石碑が建てられていることが多いです。見つけると「芭蕉もここにログインしたんだ~!」とちょっと親近感が湧いちゃうんですよね~。あとは「目の付け所がやっぱり違うな~」と上から目線になってみたりもします。
句碑を読もうとしましたが、なるほど達筆すぎて読めません。私と同じような人のために、ご丁寧に楷書バージョンも左に添えてくれています。ありがたい。
「都出でて 神も旅寝の 日数哉」
芭蕉がこの句を読んだ経緯として「9月末に都を出て、10月の終わりに沼津に至った。そこで旅館の主人から『一つ詠んじゃってよ~。ね、お願い!芭蕉さんならパパッと作れちゃうでしょ!』と頼まれたので、〝風流捨てがたく〟詠んだよ」ということらしいです。
何ですか風流捨てがたいって。ニュアンスは伝わるけどよくわからん。と思って調べたところ、「風流韻事」という言葉が存在し、意味は「自然に親しみ、詩歌を作って楽しむこと」(出典:小学館 大辞泉)。
なるほどね、ここで〝風流捨てる〟ことは、俳人・松尾芭蕉の選択肢にないですよね。ラッパーが「ちょっとラップやってみせてよ(笑)」って言われたらブチかまさずにはいられませんもんね。
句の意味は、「今回は神無月(10月)の1ヶ月を旅したわけだから、出雲を目指している途中の、全国各地の神さまたちと旅を共にしたようなもんだね」という感じ。「10月という1ヵ月は、全国全ての各神社から、島根県の出雲大社に集合する特別な月である」というお話が当たり前に浸透していたことも、ここからよくわかりますねー。
この句と出会って、ただ「10月の1ヵ月を旅した」という事実を、こんな洒落た言い回しで簡潔によめちゃう芭蕉のすごさを思い知りました。自分が同じ立場でこんな気の利いたコメントできます?
同じ土俵でないのは百も承知ですが、正直嫉妬しています。風流、捨ててないだけあるな~。
ところで『おくのほそ道』の冒頭の一文、覚えていますか?
「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」。
国語の授業で初めて『おくのほそ道』に触れ、意味を知ったとき、「な、なんておしゃれな序文を書く人なんだ……」と戦慄した思い出があります。
続きを読むと、つまるところ「旅に行きたい気持ちが募りすぎて旅立つことにしたぜ」ってことなんですけど、まぁ洒落てる言い回しの連発なんですよね……。「あー旅行したい!」って思う気持ちを、言葉だけで何行にもして小気味よく伝えられる……そういう人間になりたいものです。
芭蕉の影響をガンガンに受け、今年の目標は「風流をたのしむ」に決めました。
こんなご時世ですけど、元々インドア派なのでむしろ快適な部分も多かったりします。お金さえもらえるなら、いくらでも家にこもれるんですけどね~。「みんなで集まる」ことができない悔しさはありますが、本当に大切な人とはむしろ交流回数が増えている気もしています。この世にスマホがあってよかった!
幸い、富士山周辺~伊豆エリアは自然に事欠かないし、海も山も川も楽しめる。密とは基本的に無縁。アウトドア趣味が一切ない私のような人間でも、風流をたのしむ気持ちさえあれば、身近で散歩やドライブをするだけでも、こんなに楽しいエリアが他にあるんでしょうか。
そして俳句や短歌もいいけど、ヒップホップに傾倒するのもいいかもしれません。密かに、いつか沼津や富士の中央公園あたりでフリースタイルラップバトルが開かれないのかな、と期待しています。
私が知らないだけでもうすでにあるのかな?
漁師のおじさんや、お堅そうな会社勤めのお姉さん達がマイクを持って、フリースタイルラップバトルに挑む姿を妄想しては楽しんでます。いつか実現させたいですね~!
文・写真 sio
歴史を学びに京都へ行ってお酒を覚えて帰ってきた沼津人。
おいしいコーヒーと熱めのサウナが好き。
マイブームは霜降り明星のラジオを聴くこと。
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