牧水になりたくて( 2 )大瀬崎で源氏に思いを馳せる夏

大瀬神社の鳥居。神々しく撮れちゃった

こんにちは。今年もあっという間に9月も終わりで、少し涼しくなってきたのを感じながら、夏好きの人たちと「夏、終わってしまいますね…」としょんぼりしている日々です。

今年の夏は猛烈に暑かったとともに、できるだけ移動したくなかったので、「地元の夏を満喫するぞ!」と決め、今までしたこともなかった海遊びにチャレンジしました。
これ、地元以外の人に言うと驚かれますが、海の存在が近すぎるだけに、海で遊ぶという発想自体があまりないんですよね。私の周りだけかもしれませんが。子供のころに「海へ子供同士だけで行ってはいけない」と叩き込まれまれたのが、今もどこか頭の片隅にあります。もう子供じゃないのに。

そんなこんなで友人に「ちょっと海で遊んでみませんか?」とお誘いすると、案外二つ返事でOKをもらえたもので、向かった先は『大瀬崎』です。(BGM:楽園ベイベー/RIP SLYME)

大瀬崎は沼津の中心部から車で一時間弱。市内なのに、お手頃に小旅行の気分になれる、海のきっっっれいなスポットです。海岸線をずっと車で走っていると、西浦あたりのトンネルから急に世界が変わったような、千と千尋的エモーションを味わえるのが、とても好き。

駐車場に車を停めて、海水浴場を横目に奥へ進むと「大瀬神社」があります。大瀬神社の創建は飛鳥時代までさかのぼり、日本最古の地震の記録と言われる「白鳳地震」が起こった際に、突然土地が隆起したものが島になった、という伝承が残っており、きっといつからかその上に神社を作りたくなったのでしょう。日本人、島の上や半島の先に神社を建てたくなる生き物なので。

本殿の屋根にいた天狗がかわいい。天狗伝説ともゆかりが深いようです

大瀬神社にまつわる、少しゾクッとした伝承についてお話します(※ あくまで個人的に)。海がすぐそこにありながら、完全な淡水池である「神池」も面白いのですが、有名なので今回は割愛します。

伊豆半島および静岡東部は、源氏ゆかりの史跡や伝承が多くあります。この大瀬神社もそうで、境内の説明文を読むと「古来から力技射術の霊験があるといわれ源為朝・頼朝が源氏再興を祈願し…(中略)…源氏の再興もかなえられ再三参拝されたと記されている」との記載がありました。

「源頼朝って鎌倉幕府作った人でしょ? 為朝ってだれ?」という方に説明しておくと、為朝は頼朝の父・義朝の弟です。つまり、頼朝から見ると為朝は叔父に当たります。この辺りの源氏、みんな名前の後半に朝(とも)という字がついていて、可愛いな~と密かに思っています。

為朝は、軍記物語などでは三国志で例えると「呂布」みたいな立ち位置で、バーサーカー的存在として扱われることが多いです。なぜならめっちゃ強いから。それこそ江戸時代には、物語の登場人物としてかなりの人気を誇りました。

この二人がどのタイミングで大瀬神社に祈願したのかわかりませんが、私はこの一文を見て震えあがりました。確かに源氏再興を叶っているのかもしれませんが、鎌倉幕府ができる前の平安末期という時代は、源氏も平家も、そもそも藤原氏も天皇家も、身内で紛争しまくって、それぞれ真っ二つに割れて戦っていたわけです。「白組の源氏VS赤組の平家」、のような単純な構造では決してなく、それぞれのお家に白派と赤派がいて、同じ源氏でも「お前が白派っつーんならオレは赤派だ、次会う時は戦場だな!」なんてことが平然とあったわけです。むしろそれはまだ良い方で、ふつうに闇討ちとかしますよね。シンプルに敵の戦力削ぎたいので。

神社から降りて沿岸に出ると、石浜が広がっている。石が転がっている場所では、何故か三途の川のごとく石が積まれている率高し

前置きが長くなりましたが、頼朝の父・義朝と為朝は、「保元の乱」という争いでバチバチに争います。結果、為朝の所属していた側が負けて、為朝は島流しに遭った先でも暴れまくるもんだから、追討軍が編成され自害に追い込まれます。また、「保元の乱」で勝った頼朝の父・義朝ですが、次の「平治の乱」で負け、逃げている途中でやはり自害に追い込まれます。そんな流れがあった末に、息子である頼朝は、この伊豆は韮山、蛭ヶ小島に流されるわけですね。罪人の息子として。

その後頼朝が挙兵して平家に打ち勝って「鎌倉幕府」を作り、「源氏の再興」というやつが成されます。そんな源氏本流の血も、3代で途絶えたりするわけだけど、室町幕府の足利氏も、徳川幕府の徳川も源氏なわけだし、長い目(?)で見れば再興がしばらく続いたと言える…のだと思います。

「お家の再興」って言葉はわかりやすいけれども、そこに個人の幸福はまったく無視されている。自分の武勇でもっと誇りたかったかもしれない為朝にとって、結果論としての「源氏の再興」は、正解だったんだろうか。
「源氏の再興」に自分はいらない存在だったとしても?
自分より強いヤツに会えればそれでよかったかもしれない、為朝の純粋さに思いを馳せながら、大瀬崎の海に足をつけてはしゃいだ、そんな夏のひと時でした。


文・写真 sio

歴史を学びに京都へ行ってお酒を覚えて帰ってきた沼津人。
おいしいコーヒーと熱めのサウナが好き。
マイブームは霜降り明星のラジオを聴くこと。
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