[特別寄稿/月刊イヌ時代編集長]バター犬先輩とM – 愛すべき2つの屍 –

『月刊イヌ時代 増刊号』発売を記念して、編集長のまるちゃんに特別コラムを寄稿いただきました。下ネタが苦手な方はご注意を。
(On Ridgeline編集部)


バター犬先輩とM – 愛すべき2つの屍 –

僕の大学の先輩に「バター犬」というニックネームの人がいる。

その先輩がなぜ、「バター犬」というあだ名を持つに至ったか。ハッキリとした記憶はない。 バター犬といえば、人間の大切な部分にバターを口紅のように塗りたくり、それをチャグチャグと犬に舐めさせて快楽を得る行為である。

そんなインビなエーケーエー(a.k.a.)を持つバター犬先輩は、熊本生まれの九州男児である。
大学時代は女子の合宿部屋に侵入して下着の匂いを嗅いだり、クラブ帰り、酔い潰れた後輩の頭に向かっておしっこをひっかけたり。そう、彼は確かに野に放たれた、やりたい放題の変態犬だった。

大学を卒業してからは、就職せずに鹿児島県の三島村というところにジャンベ(アフリカの伝統的な打楽器)留学をしたり、パリに語学とダンスの修行に行き、そのままヨーロッパを放浪したりしていた。
働く気ゼロである。が、なぜか僕には、彼が自分の人生を100%真剣に生きているような気がした。

沼津市の戸田にタゴールという素敵なホステルがある。
インドの詩人ラビンドラナート・タゴールから名をとったそのホステルは、ついこの間、オープン一周年を迎え、近頃は洗練されたホスピタリティにさらに磨きがかかっているようだ。
昨年の夏、2カ月間だけそのタゴールホステルで働かせてもらった。一度ホステルという場所で働いてみたかったのだ。

そこにMという若い男性のスタッフがいた。
彼もまた、熊本生まれの九州男児だった。僕はなぜか「熊本」に因縁があるのだ。
そのMも面白い男だった。

大学を卒業して就職を蹴り、流れ流れて伊豆半島にやってきた。
彼は、相手の懐にスルリと入ってくるので、まるで昔からの友達のように感じてしまう。彼なりの処世術なのだろう。
バター犬先輩と同じ匂いがした。

Mはその日の仕事が終わると、「マルちゃん、今日も見るぞコノヤロウ」と言って、のんびり外で海を眺めながらビールを飲んでいる僕のところにやってきた。そして僕のスマホを奪うと、勝手に「pornhub」と検索し、続けざまに「ガチムチ兄貴」と入力する。
すると、ハードコアなマッチョの兄貴たちが男同士で交尾する姿が画面上に現れた。彼はその2分半ほどのショート・ムービーの中のガチムチ兄貴たちのセリフを全て暗記しようと奮闘していたのだ。
夏の夜、戸田湾に浮かぶ漁船が優しい波を受け、ゆりかごのように揺れている。停泊中の船の奏でるチャプ、チャプ、という心地よい響きに快哉を叫ぶ兄貴たちの声が混じり、闇に溶けていった。

基本的にMも、働く気はゼロだった。
彼はさらに「あわよくばヒモになる」スタンスだった。戸田ではその夢が叶わなかったのか、彼はそのあとしばらくしてタゴールを辞め、海外へ羽ばたいていった。
行き先はバター犬先輩と同じ、パリだった。

現在、Mとは音信不通になってしまった。
タゴールスタッフ時、散々「アニキ動画」を観た間柄だったのに。
花の都、パリで裕福なラ・マン(愛人)を見つけることができただろうか。間違えてアニキたちに囲まれていないだろうか…僕が作っているこの『月刊イヌ時代』。実は、過去に二度ほどこのような雑誌媒体の実現を試みたことがある。

一度目はバター犬先輩と。
二度目はタゴールのMとだ。

二人とも読書が好きだった。
バター犬先輩は椎名誠さん、野田知佑さんのファンで、海外放浪も彼らの影響だろう。
Mはタゴールで岩波文庫の青帯(哲学)を読み耽っていた。 しかし、同時に二人ともちゃらんぽらんな性格だったため、両方とも制作途中で頓挫してしまった。

三度目の正直(イヌ時代のヒップホップコラムを執筆していただいている昇竜さんが後押ししてくれた)で、何とか形にすることができた。 なので、この月刊イヌ時代の前には、バター犬先輩とMという二人の九州男児の腐乱した屍が転がっていると言って良い。

イヌ時代を読む皆さまにはぜひ、この二人の怨念を感じて欲しいものである。

※ 参考動画(Tagore Harbor Hostel 公式YouTube)


文章 まるちゃん@月刊イヌ時代編集長

静岡で奇怪なコラム型ミニコミ誌「月刊イヌ時代」をリリースしています。